通訳に求められる資質とは、現場経験、
幅広い知識、人間性。

逐次通訳と同時通訳の違い

ネルソン・マンデーラ

ネルソン・マンデーラ

政治家

相手が知っている言葉で話しかければ、頭で理解する。相手の母国語で話しかければ、心で理解する。

逐次通訳と同時通訳には、共通点と相違点がそれぞれあります。共通点としては、どちらの場合も、発話者の一言一句を聞き漏らさずメモしながら記憶し、それらを瞬時に相手側の言語に変換するべく、取扱い分野の用語を事前に下調べした上で、持てる能力を総動員し、極度の集中による脳ストレスに耐えなければならないことです。

一方相違点は、大きく2つ挙げられます。ひとつは、同時通訳が通訳ブースのマイクからイヤホンを通してなされる一方、逐次通訳は双方の当事者と対面しながら直接対話をする点。もうひとつは、その拘束時間の違いです。実際、逐次通訳では、時にクライアントと一緒に長距離移動をしたり、ホテルに滞在したりしながら、朝食から夕食アテンドまでを含む長時間サービスを強いられる場合もあり、身体的な疲労も大きくなります。

食事中通訳者
食事中でも逐次通訳者が働きます

そしてクライアントが通訳を使い慣れていない場合などは特に、逐次通訳に求めることも様々であり、時に通訳以外の仕事(移動時の切符手配や立替え、イタリア人訪問者の個人的なサポート等)も求められたりします。

それでは逐次通訳に求められる資質とはどのようなものなのでしょうか。

プロの逐次通訳者に求められる資質

語的能力が高ければ高いほど良いことは言うまでもありません。しかし、良い通訳に求められるのは言語的能力だけではありません。クライアントに満足いただくためには、身につけなければならない態度や資質があるのです:

  1. 通訳サービス中は、ご依頼いただいたクライアントの相手方に対する印象を損ねないよう、プロフェッショナルとしての厳しさと礼儀を持ってサービスに当たるべきです。言語的能力に非の打ちどころがなくとも、お客様に対して横柄な態度をとったり、反対に馴れ馴れしくしたりすることは避けなければなりません。
  2. いかに優秀な通訳といえどもあらゆる分野に精通していることは不可能です。ですから、特に新たな分野の通訳依頼を受けた場合は、できる限り、事前に専門用語を確認できるよう、必要な参考資料をクライアントに依頼したり、自分で調べたりして、頭に入れていくか、メモを用意しておくなどの準備作業が重要となります。念入りな準備がサービスの質を左右するからです。
  3. 専門用語さえ押さえておけば大丈夫というものでもありません。例えば、ある機械の販売契約に関する商談通訳の場合、技術仕様などについてはもちろん調べてきた専門用語が役立ちますが、契約、支払、取引条件など、打ち合わせは多岐にわたります。さらに逐次通訳では、ビジネスミーティング以外にも会食などのアテンドもしながら、あらゆる会話を訳さなければなりません。よって、日常的に、それぞれの国の時事や政治動向などに関心を持ってアンテナを広げておくことや、文化的に幅広い知識を持っていることが大いに役立ちます。このような会食の場の雰囲気によって、信頼関係がより深まり、その先のビジネスがスムーズに運ぶということも多いのです。通訳としては、1日の終わりで心身の疲れがピークに達している時ですし、酒などが入れば、双方の舌もさらに滑らかとなり、通訳は食事をする暇もなく話し続けなければならないこともしばしばです。そんな時も和やかな雰囲気を壊さず、盛り上げることができるのがプロの通訳です。
  4. クライアントのニーズを事前に理解してからサービスに臨むこともとても重要です。つまり、通訳のサポートによって、どのような目的を達成したいのかを正確に知ることです。ですから事前にクライアントと打ち合わせて、その目的を明確にしてから、達成にベストをつくさなければなりません。通訳を使った経験のないクライアントの中には、通訳とは機械的に言葉を置き換えるもので事前の情報提供は必要ないと思っている場合もあるので、より良いサービスのために情報提供が必要であることを伝える必要性もあります。
  5. 時には、目的達成のためにチームの一員として、状況に応じて自主的な調整役やフィルターとしての役割を求められることもあります。基本的に、通訳の任務は、クライアントの言葉を削らず、また付け加えず、正確に伝えることです。ただクライアントの中には、文化的背景やビジネスメンタリティを知っている通訳に、コンサルタント的なサポートを求めたり、意見を求められたりすることもあります。重要なことは、お客様のニーズを的確に理解して対応できる判断力と柔軟性です。
  6. 通訳には精神的な強靭さも求められます。クライアントが非協力的であったり、気難しい相手や、気の合わない相手ももちろん中にはいます。通訳も人間ですから、苛立ちを覚えたり、難しい交渉などでは、現場の雰囲気が感情的になってきて、気が萎えてしまったりすることもあります。しかし高いプロ意識で、常に平常心を保ち対峙することが必要です
  7. どのような難しい状況に遭遇しても、ある程度の経験を積んで現場でのノウハウを習得していれば、落ち着いてその場を乗り越えられるようになります。時には、ちょっとした冗談や笑いが、その場の雰囲気を和ませ、緊張をほぐす助けになることもあるのです。ですから通訳には時にユーモアのセンスも必要となるのです。
  8. 通訳は、常に客観的な立場を貫き、クライアントから求められない限り自分の意見を介入させてはなりませんし、また仮に回答が分かっている質問であっても、クライアントの指示がない限り自分が直接答えてはなりません。しかしクライアントから、自分の代わりに直接相手側と話して欲しいと言われた場合は、間違いがないよう正確にクライアントの意図が伝わる努力をする必要もあるのです。

これらの資質や態度を備えることで、クライアントからも相手方からも信頼を得ることができるばかりか、双方のより良い関係構築に直接影響を与える重要な役割を担うことになります。まさに、「たかが通訳されど通訳」を双方が実感してくれることでしょう。

イタリア語⇔日本語逐次通訳

タリア人と日本人の間で20年にわたって通訳してきて感じることは、言葉の違い以上に、考え方や習慣の違いが大きな壁になることが多いということです。単刀直入なイタリア人にとっては、日本人的な遠回りな物言いや、形式的な物事の進め方はとても不可解に映ったり、決定までの時間がとても長いことや、客への過剰な謙りや気の使い方もなどに対しても、時に理解に苦しんだりするようです。

疲れた通訳者
通訳者がストレスを受けているとき

さらに、品質に関するとらえ方や、問題の解決方法も双方の国で大きな隔たりがあります。そのような違いに戸惑うイタリア人に、日本的なビジネスの進め方や日本で気を付けるべき態度など、ちょっとしたヒントをさりげなく伝えることでとても喜ばれることもあります。

反対に、初めてイタリアとのビジネスを始める日本人クライアントには、イタリア人のビジネスの進め方やメンタリティの違いをお伝えすることで、無駄な衝突を避けることにつながることもあります。また、問題が発生してクレームをする時にも、日本人は節度を重んじ、時に遠慮がちになる傾向があるのですが、イタリア人にははっきりと断固たる態度でクレームをしないと通じないことを、状況に応じてお伝えし、イタリア語通訳する時にそのような表現をあえて選ぶこともあります。

双方の考え方の違いが分かるからこそのきめ細かなサービスが、それぞれの目的達成に役立つとすれば、通訳冥利に尽きるというものです。そして当方のサービスにご満足いただけた証として、繰り返しお声をかけていただくクライアントが数多くいることは大変感謝なことです。長年のイタリア語通訳経験からの学びが、より良い通訳サービスに色々な形で役立っています。